元凶と魔獣:晴空編
おや?カズサのようすが…【Can the monster cat girl really not be ordinary?】
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カズサ「うぁ゛ぁ゛ァァァァッ!!!死ねッ!死ね死ね死ねェ゛ッ!!!」
半狂乱になった魔獣は、叫び狂いながら冷静さをカケラも感じさせない荒々しく滅茶苦茶な動きで勇者を襲う
アリス「カズサッ…!お願いです!もう止まってください!貴女は…」
「黙れ…!黙れっ!黙れぇ゛っ!」
もう何も聞きたくない
そう言いたげな張り裂けんばかりの声で勇者の言葉を遮り拒絶する
たとえ心の奥底では、もう止まりたいと願っていても
カズサは自らを“魔獣”だと思い込み絶対に戻れないと諦めている
今の彼女を救えるのは、ヒーラー系勇者のアリスしかいない
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私は平凡を求めちゃいけなかったんだ
ただ暴れるしか脳のない魔獣
嫌いなものも、
好きなものも、
全部破壊してしまう
“怪猫「キャスパリーグ」”
それが私なんだから
アイリも
ナツも
ヨシミも
宇沢も
この手で壊した
“平凡”なんてちっぽけでささやかな願いさえ叶わない
なら願うなどという馬鹿な事はやめる
破壊を齎すことしか出来ないなら
せめて元凶どもを…
そう、思ったのに
こいつ
勇者
アリスは…
元凶である小鳥遊ホシノを赦して
私を“平凡”の道に戻そうとしている
その言葉を聞くと理解を拒否する
どうすればいいのか分からない
もう何も考えたくない
こいつを否定するしか出来ない
仲間だった子達を撃って
敵意と殺意に狂って
人を殺そうとした私が──
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カズサ「私が平凡になる資格なんて、もうないんだよぉ゛っ!!!!」
アリス「カズサ…」
肉体の限界を超えた超速の動きを何度も繰り返し、その反動で息を切らせながら砕けた石畳に膝をつくカズサ
自らの願いを否定し、雨と涙が頬を伝う
「全部…何もかも無駄だった…私みたいな魔獣が、ささやかだろうとこんな事を願っちゃいけなかったんだ…!」
頭を抑え髪を掴みながら呟く
「願ったから…アイリもナツもヨシミも宇沢も…私が、魔獣が願ったから…」
「そんな事を、言わないで下さい」
苦しむ魔獣に近寄る勇者
「諦めるのはまだ早いです…!カズサはゲームオーバーになっていません!」
「うるさい」
「願いを…理想を捨てないで下さい!」
「だまって」
「スイーツ部という仲間は、本当に脱落してしまっているのですか!?貴女の事を絶対許さないと、断言出来ますか!?その仲間を一番理解しているのはカズサのはずです!貴女の信じる仲間達は本当に壊れてしまったのですか!?」
「っ…う…うぅぅぅ…!」
勇者の言葉が魔獣の中で響き渡る
「貴女が信じるのであれば、今からでもまたやり直せるはずですっ!絆ポイントを貯め直して、良き仲間に戻るチャンスがきっと…!」
「もう、もう無理だって言ってるだろおおおおおぉぉぉっ!!!」
「うくっ!?」
再度石畳を深く抉るようにしてアリスに襲いかかるカズサ
【不撓不屈】状態とはいえ、これ以上のダメージを受け続けたら流石のアリスも気力が保たないかもしれない
ひたすら攻撃を受け流し、防御と回避に専念しながら説得を試みるアリス
「みんなを止められなかった!酷い事を言って、撃った!助けようともせずに、敵だと言ってみんなを壊したっ!そしてホシノを殺そうとさえしたんだっ!
こんな私が“普通”にも“平凡”にもなれるわけがないっ!壊す事しか出来ない魔獣が望んで良い願いじゃないんだよっ!」
「いいえ!断じて違いますっ!カズサは自分自身が願う“なりたい存在”を、自分で決めて良いんですっ!」
それは先生がかつてアリスに伝えた言葉
“君がなりたい存在は、君自身が決めていいんだよ”
「アリスもそうだったんです…!カズサと同じで自分のなりたい存在を諦めようとして…!」
「そんなの知るかっ!あんたの自分語りなんか聞きたく…」
「何も出来なかった自分自身をどれほど恨んだか…!同じなんですっ!カズサとアリスは仲間を魔の手から救えなかった自分を呪って恨んで嫌った…!」
「だから、なんだよっ!」
「アリスは、仲間やみんなのために何も出来なかった罪を償う道を選びました!せめてやれる事をやって、世界に平和を齎す事に最大限貢献しようと!
カズサも同じことが出来るはずですっ!砂糖で苦しむ仲間が一刻も早く良くなるために…!これ以上の犠牲者が増えないように行動できるはずですっ!」
「そんなこと出来ないっ!ぶち壊すしか脳のない魔獣が、世界を平和に出来るとでも思ってんのかっ!?」
「出来ますっ!アリスは“元魔王”の勇者です!カズサだって、“元魔獣”の仲間として、アリスと一緒に戦えますっ!」
「無理だ…!無理な事ばっかり、ほざくなぁ゛ぁぁぁっ!!」
カズサはもうアリスの言葉を全否定することしか出来なくなっている
心の内では、私でもそうなれるのかなと希望を抱きかけているのだが…
未だに“私は戻れない”と思い込みたいと意地を張っているのだ
「無理じゃありません!カズサだって、勇者パーティの一員になれますっ!」
「黙れって言ってんだよっ!私が出来るのは、お前もアビドスも道連れに全員を葬る道しか無いっ!私1人の犠牲で復讐が遂げられるなら、みんなだって喜ぶはずなんだっ!これ以上邪魔すんなっ!」
「そんなバッドエンド…!誰も喜ぶ訳がありませんっ!いい加減にして下さい!貴女自身それが“本当の望み”ではないと分かっているはずでしょう!?」
「っ…!さっきから知った口ばかり…!あんたに何が分かるってんだよ!」
「分かります!カズサが認めた仲間達はそのような末路を求めるような人達じゃないとハッキリ言えますっ!カズサ自身だって、そんな事を求めたくないと…」
「他人の分際で、好き勝手ほざくなこのエセ勇者がァァァァッ!!!!」
(ボゴォッ!)
「ぁ゛ぐぅっ…!?」
逆上した魔獣の拳が、アリスの腹に深くめり込む
そのまま吹き飛ばされ半壊した噴水へと突っ込んだ
だが崩れる噴水の瓦礫を殴り飛ばして、アリスは再度魔獣を止めようとする
「しつっこぃ゛っ!!!」
「アリスの望むハッピーエンドを迎えるための条件には、カズサ達が幸せになる事も含まれているんですっ!勿論ホシノ始めとしたアビドスの人達もっ!」
「まだあいつらを庇うのか…!そんなのこの私が絶対許さない…!」
「アリスは、何度だってカズサを止めてみせます!ホシノが贖罪の意思を見せたのであれば、それを守るのが勇者の責務ですからっ!ヒナやハナコも同じです!カズサが復讐の心を冷ますまで、アリスは何度だって立ち上がりますっ!」
「ふざけやがって…!あんたもホシノもアビドスもっ!全員殺して復讐してやるんだよっ!それだけがみんなへのせめてもの手向になるんだっ!」
「違いますっ!アリスはそんな事絶対に許しません!仲間と過ごした楽しい時間まで否定しないで下さいっ!貴女の仲間は復讐に喜ぶのですか!?貴女が帰って来なかったらどう思うのか考えられますか!?自分の心に尋ねて下さい!復讐を成したところで、仲間はどう思うのかをもう一度尋ねて下さいっ!」
「そん、なの……よ、喜ぶに、決まってる…!砂糖を蔓延させた奴らが死ねば、みんなだって…!」
「嘘ですっ!そんなバレバレの嘘が通用すると思っていますか!?カズサ!もうこれ以上逃げるのはやめましょうっ!」
「う、うるさい…!黙れ…!」
「これ以上逃げたら、自分の心を本当に見失ってしまいます!楽しい思い出も、美しい思い出も…!全てが台無しになる前に、貴女の心と、貴女の仲間と、向き合うんですっ!」
「───」
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思い出
みんなと過ごした放課後スイーツ部での出来事が鮮明に浮かぶ
一番鮮明に浮かんだのは、アイリの一言で始まった
シュガーラッシュ
という名のバンド
謝肉祭でセムラを手に入れるためなんて言って、色々やったな
アイリが思い悩んでたと気付けなかったから、ナツとヨシミと共闘してセムラの争奪戦なんかしちゃってさ
実はそんなことじゃなくて慌てたけど
最終的に残り1週間で仕上げて…
みんなで頑張って楽器を練習して
勉強や体操なんかしたりして
スイーツ部らしくお菓子食べて
途中宇沢が乱入したりしながら
結果、無事にセムラを掴むことが出来た
アイリが見せた笑顔
ナツの喜びの言葉
ヨシミの楽しそうな声
今となっては懐かしいとさえ思える
私が復讐したら
本当にみんなは喜ぶのだろうか
ホシノやアビドスの人達を殺したら
本当にみんなは喜ぶのだろうか
私が倒れたら
私が死んだら
本当にみんなは喜ぶのだろうか
──ああ、そうだったんだ
この復讐心は、私の自己満足
何も出来なかった自分への怒りと
砂糖で狂わせたアビドスに対する憎しみ
それを無くしたいだけだったのか
また、やり直せるのかな
本当に、前みたいになれるのかな
アイリとも
ナツとも
ヨシミとも
宇沢とも
私が心から願った“平凡”さえも
元に戻れるのかな
戻れるのなら…
私は…
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魔獣は動きを止めた
組み合っていた手から力が抜け、だらんと下ろされる
勇者は彼女を抱き締めた
慈しむように、優しく抱き締めた
アリス「…カズサ」
抱き締めながら呼びかける
雨はもう止んでいた
分厚い雨雲が風に流され、徐々に星空が見え始める
カズサ「……アリス…私、戻れるかな…またあの日常に…戻れると思う…?」
今までの荒々しい姿が嘘みたいな、少女らしい涙声で勇者に問いかけた
「はい、アリスは信じています」
「スイーツ部のみんなや宇沢と一緒に、平凡で普通な幸福が…欲しい」
「大丈夫です。きっと…絶対叶います」
「これ以上、誰も傷つけたくない」
「その心配は無用です。アリスがいますから」
「みんなに謝りたい…」
「必要ならアリスも一緒に行きます」
「…もう魔獣になんか、なりたくない」
「安心して下さい。もう魔獣に戻る必要はありません。カズサは、カズサ自身がなりたい自分になれます」
「……ごめん、アリス…ごめん…」
魔獣は…否、【杏山カズサ】は
アリスの身体を抱き締め返した
カズサの目から、今までとは違う幸せな涙が溢れ出る
瓦礫の山となった広場の中央にて
2人の頭上に月光が降り注いだ
ようやく雨雲が去り、空は晴れた
それはカズサの心の雲が去った事も意味していた
カズサは泣きながら、ボロボロなアリスの事を優しく抱き締め続けたのだった
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カズサ「アリス…」
アリス「はい」
「ホシノが死んだらどうしよう…」
「…」
「もし、私のせいで死んだら…」
「いいえ、きっと大丈夫です。ミネ師匠もセナ先輩もセリナ先輩も、必ずホシノを“救護”してくれます」
「本当に……?」
「…信じて下さい。アリスだけでなく、カズサも信じるのであれば…きっと救護は成功します」
「…そっか………うん、分かった」
「まずは、テントに戻って…うぅっ!」
流石に限界が訪れたのか、アリスの身体がカズサにもたれかかってしまう
「っと、大丈夫アリス…って私がやったんだけど…」
もたれかかった勇者を支えながら呟く
「ご、ごめんなさい…アリス、もうHPが限界ギリギリです…」
「だろうね…じゃあ掴まってくれる?」
するとカズサはアリスを抱き上げた
それもお姫様抱っこの体勢で
「わわっ!?カズサ、大丈夫ですか…?あんなに無理した動きばかりしてたのにアリスを抱っこして動くのは…」
「良いの良いの。なんか知らないけど、腕力とかさっきのままっぽいから」
「えっ」
「散々あれだけぶん殴っちゃったから、せめてこれくらいさせてよ。…もう魔獣にはなりたくないし」
「…はい、分かりました」
アリスはカズサに抱き抱えられながら、救護騎士団テントへと向かった
ホシノが救われる事を祈りながら、歩みを進める2人
“元凶”を救いたいという気持ちが、ここで漸く共通の“願い”になったのだった
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[パンパカパーン!]
【vs魔獣カズサ TORMENT】
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